北欧ミステリーの代名詞とも言える、ヘニング・マンケルの傑作「刑事ヴァランダー」シリーズ。スウェーデンの美しい自然の裏に潜む社会の闇と、人間味あふれるクルト・ヴァランダー刑事の生き様が世界中のミステリーファンを魅了し続けています。
「どこから読み始めればいい?」「全11作品の順番や読みどころを知りたい」という方に向けて、シリーズの魅力や各作品の背景を分かりやすくご紹介します。哀愁漂う北欧ノワールの世界へ、ぜひ足を踏み入れてみませんか?

私がヴァランダー刑事に最初に出会ったのは
週刊文春で紹介された「めくらましの道」でした
ヘニング・マンケル(Henning Mankell)プロフィール
- 生没年:1948年2月3日 〜 2015年10月5日(享年67)
- 国籍:スウェーデン(ストックホルム生まれ)
- 主な職業:推理作家、児童文学作家、舞台監督、劇作家
主な経歴と作風
- 「刑事ヴァランダー」シリーズの誕生: 1991年に発表した『殺人者の顔(Mördare utan ansikte)』で、スウェーデン南部の田舎町イースタを舞台にした中年刑事「クルト・ヴァランダー」シリーズをスタートさせます。このシリーズは世界35ヶ国以上で翻訳され、累計2,000万部を超える大ヒットを記録、現代の北欧ミステリーブームの火付け役となりました。
- 社会派としての側面: 単なる謎解きにとどまらず、スウェーデンが抱える移民問題や人種差別、社会のひずみなどを巧みに作中に取り入れ、現代社会の闇を鋭くえぐる作風が特徴です。
- 多面的な活動とアフリカとの深い関わり: 作家としてだけでなく、劇作家や舞台演出家としても長く活動しました。また、人生の多くの時間をアフリカ(モザンビークのマプトなど)で過ごし、劇場の創設やHIV/AIDS問題への啓発活動、若手作家の育成などにも尽力しました。
- 主な受賞歴:
- スウェーデン推理作家アカデミー賞(『殺人者の顔』他)
- 英国推理作家協会賞(CWA賞)ゴールド・ダガー賞(『目くらましの道』)
- 同インターナショナル・ダガー賞(『スウェーディッシュ・ブーツ』)
ヴァランダー刑事全作品
ヘニング・マンケルの「刑事ヴァランダー」シリーズ全12作品を、スウェーデンでの発表順に整理しました。
(日本での発表年月については、主に東京創元社の翻訳出版に基づいています。)
| 発表順 | スウェーデン語タイトル | 日本語作品名 | 日本での初版刊行年 |
| 1 | Mördare utan ansikte | 殺人者の顔 | 2001年 |
| 2 | Hundarna i Riga | リガの犬たち | 2002年 |
| 3 | Den vita lejoninnan | 白い雌ライオン | 2002年 |
| 4 | Mannen som log | 笑う男 | 2003年 |
| 5 | Villospår | 目くらましの道 | 2003年 |
| 6 | Den femte kvinnan | 五番目の女 | 2004年 |
| 7 | Steget efter | 背後の足音 | 2005年 |
| 8 | Brandvägg | ファイアーウォール | 2006年 |
| 9 | Pyramiden | ピラミッド | 2007年 |
| 10 | Innan frosten | 霜の降りる前に | 2007年 |
| 11 | Den orolige mannen | 苦悩する男 | 2014年 |
| 総集編 | Handen | 手:ヴァランダーの世界 | 2014年 |
第9作『ピラミッド』は、物語の時系列としては第1作よりも前の過去を描いた短編集ですが、スウェーデンでの出版順としては第9番目となります。
第10作『霜の降りる前に』からは、ヴァランダーの娘であるリンダ・ヴァランダーが主要な登場人物として加わります。
各作品の概略
殺人者の顔
スウェーデン南部の田舎町イースタで、人里離れた農家が襲われ、老夫婦が惨殺される事件が発生。生き残った妻が残した最期の言葉を手がかりに、中年刑事クルト・ヴァランダーが捜査に挑む。折しも折からの難民排斥の世論が吹き荒れる中、 xenophobia(外国人嫌悪)という現代社会の深い闇が事件の背景に絡み合い、ヴァランダーは心身ともに過酷な試練に直面していく。
リガの犬たち
バルト海の対岸に位置するラトビアの首都リガから、小舟に乗せた二人の男の死体がスウェーデンの海岸に流れ着いた。身元解明のためリガへ飛んだヴァランダーは、ソ連崩壊直後の混乱と暗い影がうごめく街で、警察内部の腐敗や巨大な陰謀に巻き込まれていく。見知らぬ土地で孤立無援の中、身の危険を感じつつも真相を追う緊迫のサスペンス。
白い雌ライオン
南アフリカのケープタウンで起きる連続殺人と、スウェーデンで起きた不動産業者の失踪・殺人事件。一見無関係に見える二つの事件が、アパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃に揺れる南アフリカの政治的陰謀によって結びついていく。異国の地へ赴いたヴァランダーが、国際的なテロ計画と黒幕の影に立ち向かう、シリーズ初のスケール大きな国際謀略ミステリー
笑う男
夜道で起きた自動車事故、それは綿密に計画された弁護士の殺人事件だった。旧知の弁護士から不穏な相談を受けていながら助けられなかった後悔に苛まれるヴァランダーは、事件の背後に国際的な犯罪組織と冷酷な巨悪の存在を察知する。無力感や孤独感に苦しみながらも、刑事としての執念を燃やして巨大な闇の真相を暴き出していくシリアスな長編。
目くらましの道
夏の盛り、菜の花畑で若い女性が突如として身を焼き自殺するという奇妙な事件が起きる。それを皮切りに、残虐な手口の連続殺人事件がスウェーデン全土を恐怖に陥れていく。捜査に行き詰まりを感じるヴァランダーの前に、思わぬ目撃情報や隠された人間関係が浮かび上がる。人間の心の闇や社会のひずみを鋭く抉り出した、シリーズ屈指の高い評価を誇る傑作。
五番目の女
野鳥愛好家の老人が残酷な罠にかけられて惨殺される。それを発端に、高齢者を狙った冷酷な連続殺人が次々と発生する。被害者たちに見えない共通点を探るヴァランダーたちの捜査網を嘲笑うかのように、犯人はさらなる凶行を重ねていく。社会のシステムからこぼれ落ちた者たちの底知れぬ復讐心と執念を描いた、息もつかせぬサイコサスペンス。
背後の足音
初夏のイースタの森で、若者たちが奇妙な儀式のように次々と惨殺される事件が勃発する。さらに同僚の刑事が謎の失踪を遂げ、思いがけない隠された素顔が。被害者たちの意外な接点や過去の因縁が複雑に絡み合う中、ヴァランダーは自身のプライベートの揺らぎや疲弊と闘いながら、犯人の異常な心理の奥底へと迫っていく重厚なミステリー。
ファイアウォール
19才と14才の少女がタクシー運転手を襲う時間が発生。ふてぶてしい態度の二人。尋問の部屋で母親を殴った少女をヴァランダーが思わず平手打ちを。ところがその瞬間の写真が新聞に掲載され・・ 少女の一人が逃亡したことで事件は思わぬ方向に向かい始める。
ピラミッド
ヴァランダーが一人前の刑事へと成長していく若き日を描いた、全5編からなる珠玉の短編集。初陣となった強盗事件の裏側や、のちに深い関係となる女性との出会い、そして刑事としての哲学や苦悩がどのように形成されたのかが鮮やかに綴られる。シリーズ本編の背景や、人間クルト・ヴァランダーの原点を深く知るうえで欠かせない重要作。
霜の降りる前に
ヴァランダーの愛娘リンダが警察学校の卒業を控え、故郷イースタの警察署に配属される直前の夏。クルトと一緒に過ごすリンダの友人、アンナが行方不明に。いさめる父の言葉を聞かず勝手に調べ始めるリンダ。新しい父娘の関係のなか、身の回りに複雑な事件が・・
苦悩する男
定年を間近に控えた、あるいは既に一線を退こうとするヴァランダーが遭遇する最後の事件。愛娘のリンダに子供が生まれた。リンダの夫、ハンスの父親ホーカンは退役した海軍司令官。ある日突然、ホーカンが失踪するが、以前パーティで会った時のホーカンに違和感を覚えていたヴァランダー。北欧ミステリー金字塔のヴァランダーシリーズ最終巻。
手 ; ヴァランダーの世界
引退して田舎暮らしが夢だったヴァランダー。友人に紹介された田舎の家を見に行くと、その裏庭で地面から手の骨が突き出ているのがみつかり。
短編「手」と、著者マンケル自身によるこれまでの作品、登場人物、地名など「ヴァランダーの世界」が解説された、いわば「総集編」です。
むすび
以上、ヘニング・マンケルの代表シリーズ「刑事ヴァランダー」の作品を、長編11編と総集編的な短編+ヴァランダーの世界の解説編を紹介しました。
現代ミステリー王国スウェーデンの礎(いしずえ)を築いた、ヘニング・マンケルの世界、「刑事ヴァランダー」のシリーズをぜひ手に取ってお楽しみください。











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